小高い丘の上に静かにあるそこは、先日訪れた時と何一つとして変わってはいなかった。

変化があるのは俺の方で、服装や身に付けているものは勿論違うのだがもう一つ。今、俺の傍には誰一人として存在していない。

「ラスティ、ミゲル…ニコル。御免な、こんなに遅くなっちまって」

静寂に身を落とす墓標のみの彼等は俺の謝罪でその闇を濁す。

この言葉は、停戦から今まで…いや、俺がかつて‘赤’を身に纏っていた頃の休暇にさえここへは来なかった事への罪悪感からだ。

先日は、アスランの護衛が本来の目的であったから、俺にとっての本当の墓参りは実質今日という事になる。

何故今まで、二年以上もここへ来なかったのか。

「忙しかった」と言えば嘘にはならないが、それでも時間は十分に割けた。軍に復帰してから随分経つ最近では特に。

何かを恐れていた気がする。何かが恐かったんだ…何かが。

その‘何か’は俺の期待とは裏腹に明かされる事無く、彼等の墓前に花を添え、冥福を祈ったとしても、心の中のもやもやが消える事は無かった。

まだ帰る気にはなれず、かといっていつまでも彼等の前に居ようとも思えず、俺はもう僅かばかり高くなっている所へ登る。

そこからは、かつての仲間達の眠る地が広く見渡せたが、それでも全てを見る事は出来なかった。

その事実が何を示しているのかは言うまでもなく、先の戦争での犠牲者の多さに目を背けたくなる。

「これ以上…増えないのが一番良いんだけどな」

口に出してみたが、その願いは叶わないだろう。寧ろ、今立つこの場所にまで墓が広がる可能性の方が限り無く高い。

再び争いの火蓋が切られた今、ささやかな願いも、神の手によって握り潰されてしまうのだろう。

小さく溜め息をついた後、軽く掛け声を出しその場へ寝転がる。

空は清々しいまでに晴れ渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばっ、今何時!?」

いつの間にか意識を飛ばしていた俺の目に入ってきたのは、紅に染まった夕焼け空で、まどろむ間も無く一気に覚醒する。

何か夢を見ていた気もするが、そんな事を気にする暇は無く、勢いよく起き上がった…のだが、俺はそのまま動けなくなっていた。

何故かと言うと起き上がった瞬間に俺の頬から水滴が滑り落ちたからである。

その正体を考え、雨かとも思ったが服は全く濡れておらず、残るは…

「え、俺今泣い…て?」

どうして今俺は、こんなにも弱くなっているのか。

考えられるのは、つい先程まで見ていた夢にしかなく、どんな夢だったかと思い出そうとする。

必死に捕まえた夢の断片には、誰かの叫び声…名前を呼ぶ声、眩い閃光と爆音、そして…まだ幼かった少年の静かな言葉。

それが彼等の最期の時だと気付くないなや俺は墓標へと走り出していた。

そうだ、俺がここへ来る事が出来なかった理由。俺が恐れていたのは、俺が恐れていた何かは…

「やっと…泣けたんだ。この事こそ御免。本当、に…遅くなっ……」

その続きは言葉にならず、俺の目からは止めど無く涙が流れていた。

泣けなくなったのはいつからだろうか。気付いた時にはもうラスティもミゲルも自分の前から消えていて。

ニコルの時だって、あんなに感情を露わに出来るアスランやイザークを羨ましいとさえ思った。そして、心ではいくら思っても表に出せない自分が歯痒かった。

そんな俺を泣けるようにしたのは、敵艦で出会った一人の少女だった。その時は、自分が涙を流している事が信じられず、それでもその後は理由も分からないのに、心が軽くなった気がした。

それからも泣く事は何度かあったし、それが当たり前の事だと思うようになっていた。

それでも俺がここへ来る事を拒んでいたのは、彼等の為に涙する事が出来ないのを恐れていたからだろう。

俺は本当に馬鹿だ。そんな下らない理由で今日までずっと彼等に会わずにいたのか。とんだ臆病者は俺の方だった。

「御免…ごめん、ご…めん」

段々と小さくなる自身の声と比例するかのように俺の体はその場へ沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

随分と長い間泣いた。もう涙なんて残っていないのに、目は未だに熱くジンジンとした熱を吐き出したがっている。

あぁ、きっと酷い顔をしているんだろうなぁと頭の隅で思いつつ、すっと立ち上がる。

「皆…また戦争が始まっちまったんだ。俺には力も無くて開戦を見てるだけだった。情けねぇ…」

そこまで言うと、まだうつむいていた顔を上げ、しっかりと目の前を見据えた。

深呼吸とまではいかないが、少し深めに息をして言葉の続きをつむぎ出す。

「だから俺は俺のやり方で戦おうと思う。二度とやりたくは無かったけど、武器を取って敵を討つ事を選ぶよ。少しでもお前等んトコに大事な仲間が行かねぇように。こんなんで戦争が終わるなんて無論思ってない。だけど、俺にも何か出来る筈…俺にしか出来ない事が有ると思う。だから俺は戦場へ戻る。それを、見ててくんねぇかな」

新たな決意を声にした後、俺は墓地を出た。

再び大きな過ちを犯そうとしている世界の軌道を戻すのが難しい事くらい分かっている。

それでも俺は自分の出来る事を出来る限りしよう。

戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まだ恥ずかしくてしょうがない小説2作目。
タイトルはやっぱり思い付かないんで付けません。(多分これからも)
時間的には旧ザフト3人の墓参り後日という事で。
今回はディアッカ1人だけで、しっとり目指してみたり。

誤字脱字があれば、お手数ですが七海に連絡して頂けると幸いです。

 

 

 

 

 

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