「イザーク」

「何だ」

「イザークってさ、この後は会議?」

「…そうだ」

「へぇ。イザークも大変だな」

「…」

「イザーク?」

「……お前‘ソレ’わざとだろう」

「あぁ、バレてた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアッカ・エルスマン、ちょっと良いか?」

俺がイザークと別れた後すぐに声をかけてきたコイツ。

馬鹿だとは思うけれど、俺がそう仕向けたんだから、まぁ‘間抜け’あたりに留めといてやるか。

少なくとも…ジュール隊長様のお嫌いな‘腰抜け’では無い様だ。

「何?俺も忙しいんだけどさぁ。イザークの仕事の手伝いとか有るし」

そう言えば相手はわかりやすく顔をしかめる。

嗚呼…どうしてこういう奴等はこうも扱い易いのか。

本当に軍人としてやっていけるのかどうか心配すらしてやりたい気分だ。

「そんなに時間はとらせない。とにかく、俺に付いて来てくれれば良い」

必死につくった澄まし顔で言ってるけど、どうせ時間かかるんだろ?

まぁ、イザークの会議が終わるまでには片せるか。

「OK、出来るだけ早く頼むぜ」

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れられて部屋に入った瞬間、俺の眉間には深く皺が刻まれた。

「そう心配するな。何も手荒な事をする気は無いさ」

違う、そんな心配する訳ないだろ。

「……へぇ、俺ってこんな人気有ったんだぁ。でも6人も相手したら流石にキツイかなぁ」

不敵に笑う。妖艶に、自分の色香を見せ付けるかの様に…

こんな態度イザークにだって滅多にしない珍しい事なんだから、特別に早々と用事を済ませてもらいたい。

「なっ、ふざけるなっ!!」

あーあ、そんな喉の奥が見えるまで大口開けて叫んじゃってさぁ。

冗談も通じねぇ、つなんない奴等。

前言撤回。やっぱコイツ等馬鹿だ。

それに、1人で来たと思ったら仲間が5人も御出迎え…とんだ腰抜け野郎どもだね。

「でさっ、本当の用事は?しょうもない事だったら俺帰りたいんだけどぉ?」

口調は軽く、眼光は鋭く。さぁて、今回はどうなるか…

科白だけ聞いてこっちを見ようともしない2人―ただの馬鹿。

目が合ってんのに何とも感じてなさそうな3人―よっぽど肝がすわってるか、可哀想なくらい鈍感。情け無い事に今回は全員後者。

最後。モロに目ぇ見て動けなくなってる奴―他の5人よか賢いけど…ダメだな、臆病者。

相変わらず雑魚ばっかし。面白くはならないが、5分、10分で終わるから良しとするか。

「エルスマン、お前はジュール隊長を何だと思っている」

馬鹿2人の片割れが口を開いた。相変わらず俺に見えるのは背中だけ。

人と話をする時はちゃんと相手の目を見て話せってママに教わらなかったのかよ、雑魚A。

「って言うと、どーゆー意味?」

俺にとっちゃ慣れてて分かり切っている事だが、わざわざ聞き返してやる。

どうもコイツ等は自分の言いたい事を伝え切れない程、頭が足りないらしい。

「では、ハッキリと言わしてもらおう」

最初っからそうしてくれ、雑魚B。

「ジュール隊長を馬鹿にする様な態度をとるな。特に隊長の呼び方だ」

そらきた。俺がイザークと連呼すれば、いとも簡単に釣れてしまう雑魚ども。

釣れても何の価値にもならない不要な魚。

要らない魚を大事に扱う必要もあるまい。だったら…

「何?そんなつまんない用事で俺を呼んだ訳?別に良いだろ、イザークの事好きに呼んだってさぁ。イザークはイザークなんだし」

さぁ、来いよ。

「エルスマン…」

餌は十分に撒いてやったぜ?

「あ、それとももしかしてアンタ等もイザークの事俺みたいに呼び捨てにしたいん…」

「黙れ!!」

‘ゴッ’

鈍い音が狭い部屋の中に響く。

最悪…初っ端から顔にくるのかよ。

血の味がする。どうやら口の中が切れたらしい。

「…先にやったのはそっちだからな。そこんトコ忘れんじゃねーぞ」

‘ガッ’

思いっきり蹴り飛ばしてやった。

そうしながらも俺は笑う。冷たく凍った眼差しに映る下らない奴等に向けて特別に。

「うぐっ…」

気色の悪い声を出して魚が跳ねる。

要らない魚は捨てれば良い。

「エルスマン、貴様ぁ!!」

他の雑魚が飛びかかって来る。

どうなっても知らねぇぜ。何せ俺の顔に傷を付けたんだ。

無事に安全な水の中へ帰れると思うなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…7分弱ってトコか」

俺の周りには大量の死体…ではなく、弱った6匹の魚。

で、コイツ等を片すのに7分か。

確かイザークとアスランが腕相撲した時に決着が着くまでにかかった時間が、8分半。

…アイツ等が凄いのか、コイツ等がショボ過ぎるのか。

まぁ、どちらもという所が妥当だろう。

「さて、と。行くか」

早いトコロ、口の中も漱ぎたい。

今までにも何度か俺を良く思っていない奴等を片してきたが、いきなり顔に入れてきたのは初めてだ。

全く…何だかむかついてきた。

口の中に出来た血の味がする唾液が不快で何処かに吐き捨てようかと思った時。

「…」

俺の思考、動き、共に停止する。

足首には妙な感触。

ハッキリ言って見たくない。

俺は早く口を漱ぎたいんだ。

「う…ま、待て…」

俺の願いは神に聞き届けられず、足首に触れる主には話しかけられた。

その足首を掴む手の力もだんだんと強くなって来ている。

まだ余計な時間を割いて相手をしなくてはイケナイのか。

いい加減、溜め息が出る。

仕方ない。適度に気の済むまで話をさせておいて、適当にあしらうか。

「あのさぁ、俺だって忙しいのは嘘じゃないん…」

「貴様の様なザフトを裏切った者に…」

ああ、そう。今度は先の戦争の時の事まで持ち出してくる訳。

「それがどうし…」

「卑劣なナチュラルなどに加担し、我等が同胞を討った重罪で、本来ならば死刑も当然である貴様がザフトに戻って来られただけでも感謝すべき事であろうというのに」

鬱陶しい説教で俺の科白をいちいち遮るな。

それに、AAに乗ってからは自ら進んでザフト機は落としてない筈だ。

何せテメェ等を守る為に必死で戦って、核を破壊して…戦場で一体何を見ていたというのか。

第一に話が長いのが気に入らない。

「ジュール隊長と自分の立場もわきまえず、いつまでも同僚気取りで敬語も使わず…」

まだ話すか。もう十分だろうに。

あまりにも長い話に他の片した奴まで起き上がってきていやがる。

俺の苛立ちもグラフにしてみれば恐らく…いや、完全に右肩上がりのうなぎ登りと言ったトコロだろう。

だんだんと…頭が、痛くなって、きた…

「そもそも貴様が大した実力も無く、議員である父親の権力でエリートの証である赤になっていた事自体が間違いであっ…」

「ごちゃごちゃと五月蝿いんだよ!マジ、イライラするぜ。この、雑魚どもがっ!!」

いきなり叫んだから一瞬息が上がる。

奴等を見ると、6人全員が驚いて声も出ないらしい。

ピタリとも動かないし、うんともすんとも言わなかった。

あー…もう、何で俺がこんなのの相手をしなくちゃなんないんだ。

この部屋に入ってから優に30分は越そうとしている。

沈黙…沈黙…沈黙…

「…あ、な、何だ雑魚とは!そんな事言って良いと思って…」

「五月蝿ぇつってんのが聞こえなかったのか!えぇ!?」

やっと口を開いたかと思えば、また同じ様な事をぐだぐだと…

実際そうなんだろうが、馬鹿の一つ覚えって言葉は上手いこと出来てるもんだと思う。

偉いこった。コイツ等とは大違いだね。

わざわざ付き合ってやってるってのに反吐が出そうだ。

いくら慣れてると言っても、こうもしつこくされると俺だって切れる。

「裏切り者、裏切り者って言うけどなぁ、テメェ等に敵艦の主砲向けられて、その上MS動かねぇ状況で、捕虜になるっつー選択が出来る度胸はあんのかよ!?俺は、俺の正しいと思った方に付いたまでだ!」

「何をそんな戯れ言…」

「それ以上鬱陶しい事言ってみやがれ、今度は手加減しねぇからな」

そこまで言うと、やっと静かになった。

依然、こちらを睨みながら。

ここまでくると、コイツ等の行動全てがむかついてくる。

ああ、ウザイウザイウザイ!!

この際だ、言いたい事は言いたい時に吐いてやろう。

「イザークをイザークと呼んで何が悪い。俺にはテメェ等の気なんか知ったこっちゃねぇ。本人が文句言わねぇんだからそれで良いだろうが!」

そうだ、危うく忘れるトコロだったがこれもあった。

「後、俺に大した実力も無くて?親父の力借りて赤になったとか言ったなぁ。だったら、実力皆無な筈の俺が、こうして戦後も生きてテメx等の目の前に立ってるってのはどーゆー事だよ、ばぁか!!」

また沈黙。ここでまた口を開く程愚かな奴は存在しないだろう。

行くとするか…

「私は大した実力も無い一般兵ですので、戦場ではどうか誤射にお気を付け下さい」

ちゃんと、とどめを入れるのを忘れずに。

まぁ、それも聞こえていればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴等に呼び出された部屋に入ってから30分強、イザークと別れてからは40分近く経っていただろう。

後、2、30分もすれば会議も終わるのではないだろうか。

まだやらなければならない仕事が残っている。隊長室へ急がねば。

少し乱暴に室内へ滑り込む。

それとほぼ時を同じくして、遅かったな、と予期せぬ人物から声をかけられた。

「イ、イザーク!?」

この場に居る訳が無い部屋の主にいきなり話しかけられて、俺の声は少し上ずる。

おかしい。会議がこんなにも早く終わったというのか。

自分が今までに出席してきた会議の経験からすると、まだ椅子に縛り付けられている時間だ。

「今日の会議は軽いミーティング程度だと言った筈だが?30分もすれば終わる、と」

俺がずっと黙りこくっていた理由をわかっていたのか、と感心すると同時に、昨晩あたりからのイザークの発言を思い出し始める。

…そういえば、今朝早くに言われた様な気もしなくは無い。

ちゃんと聞いていなかった自分も悪いのだが、俺が朝に弱い事を知っていながら、そういう大事な事を話すイザークもイザークだと思う。

ふと見上げると、俺の密やかな非難が向けられる相手の整った眉は大分寄っていた。

知らぬ間に怒らせる事でもしてしまったのだろうか。

「あの…俺何か悪い事とかしちゃった?」

不機嫌そうな顔でこちらを見られている状況にいたたまれなくなり、自分から声をかけた。

すると、眉間に刻み込まれた溝がより一層深くなった気もするが、見なかった事にする。

俺の問いに対する解答が与えられるまでひたすらに待っていると、ようやく問われた張本人が口を開く。

「貴様、口の中を切っているな。自分で蒔いた種だろう?何、怪我なんぞしている」

そんな事まで気が付いているとは…流石と言うべきか、恐らく喋り方がいつもと違っていたのだろう。

こんなトコロでコイツとの付き合いの長さを感じさせられる。

「ああ、コレね。ちょっと油断しただけだって。大した傷でもな…」

途端に軍服の肩から肘にかけての辺りを掴まれて、僅かばかりか手荒に近くの壁へと縫い付けられる。

「っ…」

背中に確かな痛みを感じつつ、今日はよく科白を遮られる日だ、などとのん気に思っていたら、急に口付けられる。

舌が口内を這いずり回り、傷口に触れた。

鋭いとも鈍いとも言えぬ曖昧な痛みに眉根を寄せるも開放されず、深くなるソレに声が漏れそうになる。

「馬鹿な考えを持ったやからを痛め付けるのも良いが、怪我をされては困る。離れて行動せざるをえない事も少なく無いのだ。もしも貴様に何か有った時、守れなかったとしたら俺はどうなる」

長かった口付けを終え、そう言うやいなや、白く細長い指が深緑の襟元を緩め出した。

「ちょ、イザーク、誰か来たらどうす…」

抵抗しようとした俺の左手はイザークの右手によって制される。

「‘イザーク’ではないだろう?ディアッカ・エルスマン?」

そう言った形の良い唇は綺麗な弧を描いており、両端は綺麗に上を向いていた。

完全に、不敵な笑みが出来上がっている。

「ジュール隊長、やめて頂けませんか」

イザークが口にした俺の名前はそうそう言わないフルネームであり、そういう事かと態度を改めた。

「大人しくしているんだな。そうだな、これは隊長命令だとでも言っておこうか」

抵抗も虚しく、既に曝け出されてしまった喉元を舌先が撫ぜる。

‘隊長命令’か。そう言われてしまえば何とか捕らえたイザークの手を掴む俺の力は抜かなくてはならない。

何せ相手は白服を纏っていて、俺は緑で。つまりは隊長とただの一般兵だ。

何を今更上下関係など、と言われるかも知れないが、今みたいな俺も乗り気な時は丁度良い言い訳になって便利なことは便利だ。

あれこれ考えているうちに、俺の軍服は肌蹴ていく。

何とも手際の良いジュール隊長によって。

楽しそうに手を動かす彼と目が合う。

やっぱり俺はイザークの事を常日頃から‘隊長’と呼ばない方が良いと思う。

今回の様な‘隊長命令’を毎回毎回出されていては俺の体がもたない。

取り敢えず、明朝に控える機体の微調整に行く予定はキャンセルしておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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恥ずかしい事この上ないですね。初小説です。
タイトルは思い付かないんで付けません。(サボリ人め)
切れると恐いディアッカを書いてみたつもりだったり。
結局最後はイザーク・ジュール隊長さんの1人勝ちでしたが。

誤字脱字があれば、お手数ですが七海に連絡して頂けると幸いです。

 

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